はじめに

宮本武典(CRJ 研究員)

生物が想像を絶する多様性に富んでいることにはいつも驚かされる。生物学の研究に携わる者として、一般の方々よりもより多くの知識をいただいているとはいえ、調べれば調べるほど、生物には色といい形といい行動様式といい、それぞれが非常にユニークで貴重な存在であることを改めて思わされる。行き過ぎた自然保護団体の行動は批判されるべきだが、生物の多様性を可能な限り保全することは、全地を支配することを主から委ねられた人間の果たすべき義務であることを、痛感させられる。

生物の多様性については、約 200 年前にイギリスの博物学者チャールズ・ダーウィンも敏感に感じ取っていた。ダーウィンは当初牧師になるために大学で神学を学んでいたのであるが、生物の多様性の妙に魅せられたため、大学の授業をサボっては海岸に出かけ、海辺の生物の観察に耽っていた。ダーウィンは、最初はこの生物の多様性は神がデザインしていたもの、すなわち創造論を信じていたと言われている。しかし、地質学者で友人のチャールズ・ライエルの斉一説、すなわち地質学的な地形は長い年月をかけて、現在見られている自然現象によるのと全く同じメカニズムで形成されてきたという考え方に強く影響され、自然選択による進化の考え方に強く傾くことになった。そして、1859 年に『種の起源』が発表されるにおよんで、我々は生物の多様性の起源を創造論で解釈するか、進化論で解釈するかの二者択一を迫られることになったのである。

20 世紀の科学は、概ねダーウィンを創始者とする進化論的な流れの中で推移してきたと言える。特に、1953 年に遺伝子の実体としてのDNA の二重らせんモデルが公表され、それによる遺伝子の複製がすべての生物に共通していることが明らかになるに至って、生命は物理化学的に完全に解明できるとの考え方が一般的となり、多くの物理学者や化学者が生物学の分野に進出してきたために、生物物理化学なる分野が確立された。このことによって、確かに生命現象に関わる多くの重要な発見がなされたことは否定できず、特に医学の発展はめざましいものであることはご存知の通りである。

21 世紀に入ってもこの潮流はしばらく続いていたが、しかし、現在、確実に翳りを見せはじめている。生物の多様性どころか、生命の起源や生命現象そのものを斉一説に基づいて物理化学的に理解することが、ほとんど不可能であることが分かってきたからである。メディアなどでは盛んに科学が神の領域に入ったというような報道の仕方をするが、それは決して生命現象の本質が分かったということではなく、生命の操作の仕方が分かったというのに過ぎない。例えば、コンピュータを新しく購入した時に、操作の仕方が分かって初めて使いこなせるのと同じである。しかし、それは必ずしも、コンピュータの仕組みを完全に理解しているからであるとは言えない。コンピュータと比較される脳に関しては、意識やクオリア(様々な感覚や感情の質感やリアリティー)といった主観的な体験としてしか存在しないものについては、客観的理解の方法は皆無と言っても過言ではない。また、環境の変化によって生物の多様性が生じることは明らかだが、ダーウィン以降この200 年間で自然選択によって種分化が起こったという証拠はなく、どんなに長い時間をかけても、このような多様性が生まれることはありえないことも分かってきたからである。したがって、生物学者たちは、血眼になって多様性がより短時間で生じるメカニズムを探索している。ウイルス進化説やトランスポゾン(ゲノム内を自由に移動する遺伝子)、エピジェネティクス(後述)が注目される理由である。

このような背景の元に、今回は米国の創造論団体 Answers in Genesis (AIG) の機関誌である Answers Magazine の最新号(June–September 2016)に掲載された記事のうち、生物の多様性の起源に関するものを選んで訳出した。『盲目になるようにデザインされている魚の眼』は、まさに生物の多様性は予め環境の変化に適応するようにデザインされたことを明確に示している。著者も述べているように、進化論者にとっては意表をつくような発見であったが、創造論者にとっては当たり前の話だったのである。『ジカ熱の脅威』はニュース記事であるが、ウイルスもまた、主が「非常に良い」ものとしてデザインされたことを、一般の科学雑誌に掲載された論文も引用しつつ紹介されている。続く『脳を持った腕』は、タコという日本人には食物としてとても馴染みの深い動物の驚くべきデザインについてである。最後の、『脳のゲーム』は人工知能に関するニュース記事である。人工知能は、iPS 細胞やゲノム編集による遺伝子治療と並んで原子力と同じ、あるいはそれ以上の両刃の剣であり、人間の存在価値とは何かということを鋭く問いかけている。この問題については、次の 11 号でもより深く掘り下げたいと考えている。

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